「クロノ・ディアマット! 貴様の『礫帝(れきてい)』としての称号を剥奪し、この魔王軍から追放処分とする!」

 雷鳴とどろく魔王城の審問室で。
 魔王軍の元帥たちは、高座にある審問官席から俺へと言い放った。

「……いきなり呼び出して、どういうことですか」

 わけがわからず質問すると、一枚の紙を突き付けられる。

「見るがいい。これは我ら三元帥の血判を押した決定書だ。昨日、全会一致で貴様を追放することが決まったのだ」

「いや、追放って……理由は何なんです。俺、何もしてませんよね」

「知れたことを。貴様が人間であること以外に何がある」

 三人のうち筆頭である空魔元帥が、吐き捨てるようにそう言った。

 確かに俺は、魔王軍の中でも珍しく、魔族ではない人間の出身だ。
 魔王軍は竜族や神族など、さまざまな種族を相手に戦争をしているが、敵対勢力の中には人間の国もある。

 だが、俺は魔族の中で生まれ、彼らとともに戦ってきた。
 一度として仲間を裏切ったことなどない。

「待って下さい。具体的な罪状もなしに追放なんて無茶苦茶じゃないですか。我々魔王軍は規律に従って──」

「黙れ! 貴様の行動など問題ではないわ!」

 一喝して言葉をさえぎられてしまう。

「そもそも人間ごときが四天王の座に就くことがおかしいのだ! 下等生物の分際でつけあがりおって!」

「亡き先代魔王は『種族間の融和』などと言っていたが、この魔王軍にそんなものは無用だ! 人間など、我らに搾取されるためだけの存在よ!」

 続いて残りの二人、陸魔元帥と海魔元帥が声を上げた。

 魔王軍で二番目に高い地位にいる三人の老元帥。
 彼らは数百年という長い時を生きており、自分たちこそが至高の存在だと主張する過激派の古株である。

 そんな元帥たちは、人間である俺のことを当然良く思っていない。

 それでも、先代魔王が存命のうちは上層部も正しく機能していたのだが……先代が亡くなってすぐにこんな暴挙に出るとは、さすがに俺も予想していなかった。

「クロノよ。さっさとこの城から出て行くがいい。この場で我らに殺されないことを幸運に思うのだな!」

「せめてもの情けだ。先代が遺した人間どもの村は、貴様の領地ということにしておいてやる」

「その小さな村で惰弱な同族たちと、短い余生を送るがいいわ」

 元帥たちは偉そうに侮蔑の言葉を並べ立てる。

 ただ、実を言うと、彼らは老いもあって実力は俺より劣っている。

 しかし、さまざまな事情で魔王軍に属している少数の人間のためにも、俺は彼らに逆らうわけにはいかなかった。

「……わかりました。今までどうもお世話になりました。二代目魔王様のこと、どうかよろしく頼みます」

 こうして俺は、魔王軍四天王・礫帝(れきてい)の地位を奪われ、たった一人で城を出て行くことになった。