禄輪さんの言う通り、全部運が良かっただけ。
夏祭りの日に裏の鳥居で子供を救えたのも、偶然私たちの知っている祝詞で対処が出来たから。偶然唱えた祝詞だけでなんとかなる相手だったから。
すこしでもその偶然がかけていれば、きっと手も足も出なかっただろう。
私たちはそれほど未熟で弱い。
誰かに助けてもらわないと、まだちゃんと戦うすべさえ持っていないんだ。
「二学期からは、その事をしっかり頭に入れて勉強に励みなさい。自分の弱さや未熟さを受け入れて、無力さを痛感すること。それが強くなる第一歩だ」
重い頭をあげれば、禄輪さんは目尻にシワを寄せて柔らかく微笑んだ。
その笑顔を見て心の中で張り詰めていた何かがはじける。
情けないくらいに流れ出す涙が止まらなくて、何度も何度も手の甲で拭った。
皆のすすり泣く声が部屋に響く。
唇をかみ締めれば大きな掌が私の髪を撫でた。
温かくて大きな手、頼りになる手、私が目指したいのはこんな手だ。