「頑張れ慶賀、頑張れ! すぐ終わるからな!」


顔を顰めた泰紀くんが何度もそう声をかける。

やめてくれと激しく首をふる慶賀くんに、何もすることが出来ず立ちすくんだ。


禄輪さんは詞を唱え続けた。聞いたことがないものだけれど、その声の調子が低く重いものだったので唱えているのは呪詞なのだと分かった。

みんなの隙間から見える慶賀くんの赤く爛れた肌が、少しづつ赤みが引いて元の色に戻り始めているのが分かる。


禄輪さんが唱えているのは、この傷を治すためのものなんだ。


呪詞の詠唱は一時間近く行われた。

最後に手の甲の爛れが消えた瞬間、慶賀くんは張り詰めた糸が切れたかのようにぷつりと気を失った。

咄嗟に息を確認した禄輪さんが、安心したように「問題ない」と言ったので、私たちは力が抜けたようにその場に座り込んだ。


「い、今のは……」


来光くんが不安げにそう尋ねる。

禄輪さんは深く息を吐いて私たちを見回した。