神棚の前に丸まった背中を見つける。
おばあちゃん、と恵理ちゃんが声をかけると、おばあちゃんは目尻の皺を深くして振り返った。
「恵理ちゃん、お友達も。ちょっと待ってなぁ」
おばあちゃんはそう言うと、丁寧な二礼二拍手をして手を合わせた。
耳に心地よい少し低めの柔らかな声は祓詞を唱えた。
傷付いた体に染み入るような、尖った心を包み込むような。
特別な力はないはずなのに、おばあちゃんの声は言祝ぎに満ちていた。
優しい風が神棚の扉からふわりと吹いた。目には見えないけれどもその風は、おばあちゃんの周りをグルグルと回ってまるで小さな渦巻きを起こす。
目を見開いてその光景を見つめる。
風が少しづつ強くなって卵色の柔らかい光に包まれる。
目の前の景色に息を飲んだ。
緋袴が見えた。灰色混じりの髪には熨斗の髪飾りが付けられ、丸い背中を包むのは白衣だ。
巫女装束を身につけた、恵理ちゃんのおばあちゃんが見える。
光はやがておばあちゃんの体に溶け込むようにして消えていく。
思わず目を擦れば、やっぱりおばあちゃんは巫女装束なんて身につけいなくて先程と変わらない背中がある。
丁寧に最後の一礼をしたおばあちゃん。
その瞬間、ずっと見えていなかった物が見えた気がした。