スマートフォンのライトを向けた先に、見慣れない木箱がいくつか置いてあるのを見つけた。
毎年年末に祝寿お兄ちゃんと大掃除をしていたけれど、こんなものが仕舞われていた記憶はない。
不思議に思いながらも引きずり出すと、あんなに奥の方に仕舞われていたのに埃ひとつついていない。
「何それ?」
「分かんない……でも封はされてないし、開けてもいいと思うんだけど……」
そう言いながら木箱の蓋をカタカタ揺らしてそっと持ち上げる。
「あっ……これ」
見慣れた朱に目を見開いてそれに触れた。
「緋袴だね。巫寿のお母様の?」
箱から出せば古い着物独特の匂いと共に、懐かしい甘い香水の匂いが微かに香る。
遠い記憶の中のお母さんは、たしかにこんな甘い匂いがした。
「……そう、だと思う」
「浅葱袴と紫袴もあるよ。丁寧に手入れされてるね」
同じように紫袴を取り出せば、お日様の匂いがした。
お父さんとお母さんが亡くなってからこれを身につける人は居なくなったはずなのに、カビも虫食いもない。
きっとお兄ちゃんが、私に隠れて毎年欠かさず手入れをしていたということだ。