「机の上にあるもの運び始めちゃって! お父さんがもう少しで帰ってくるから、帰ってきたら火を起こして始めちゃっていいからね。タエ子叔母さんは遅くなるから」


はーい、とみんなで声を揃えて両手にお皿を持つ。


「お母さん、おばあちゃんは? 今日遅くない?」


そういえば、恵理ちゃんは父方のおばあちゃんとも同居していたことを思い出す。


「おばあちゃん、今日からデイの帰りは病院に寄るから遅くなるの」

「えっ、どうして? どこか悪いの?」

「ほら、この前病院に行ってたでしょ。腎臓がだいぶ悪くなってるみたいで、これから透析に通わなくちゃ行けないのよ」


おばさんは、はあ、と片頬に手を当てて息を吐いた。

眉間に皺を寄せた恵理ちゃん。纏う空気が少しだけ鋭くなったのに気が付いた。


「ほら、せっかく入居できるホームも決まってたのに、介護等級?っていうのが上がっちゃったらしくて。また一から探し直しになのよ。どうしようかしらねぇ」

「心配するところって、そこなの? まずはおばあちゃんの心配でしょ?」

「やな言い方ねぇ。おばあちゃんの心配はしてるわよ。ただオトナはお金の事も心配しなくちゃいけないの」


居た堪れない空気が流れて、隣の嘉正くんと無言で目を合わせてひとつ頷く。

会話を邪魔しないように足音を忍ばせてそっと台所を出ていこうと歩き出した。


「そんなにお金が心配なら、おばあちゃんをわざわざホームへ入れなきゃいいじゃん!」

「恵理、いい加減にしなさいッ! 大人には大人の事情があるの!」

「じゃあおばあちゃんを追い出すってどんな事情なの!?」