私の頬を撫でて通り過ぎていくそれは春の草原を駆け抜ける風のように心地よく、ほうと目を細める。
恵理ちゃんの話していたこととはまるでちがって、息苦しさも嫌な感じも何一つない。
玄関の鍵を開けた恵理ちゃんに招かれて扉をくくると、空気が澄み切った朝の社頭のような清浄さを感じる。
「お、もしかしてちゃんと毎朝神棚に手を合わせてる?」
嘉正くんがすかさずそう尋ねれば、恵理ちゃんは目を丸くする。
「すごい、どうしてわかるの? 私はほんとに気が向いた時になんだけど、おばあちゃんは毎日お経みたいなの唱えてるよ」
「多分それはお経じゃなくて"神棚拝詞"だね。おばあちゃんが祝詞を奏上しているおかげで、神棚に御座す神様の力が十分に発揮されているんだよ。とても清浄な空間になってる」
へええ、とみんなが興味深げに頷く。
恵理ちゃんはまだしも、慶賀くんたちまでそんな様子で呆れたふうに息を吐く嘉正くん。
「少しの間お邪魔するから、手を合わせてもいい?」
「もちろんだよ、こっち」