「────家の中で、怪奇現象……?」


そう聞き返すと、恵理ちゃんは険しい顔でひとつ頷いた。


あの後、交代でお風呂に入った私たちはハーフパンツにティーシャツ姿というラフな格好でリビングのテーブルを囲った。

恵理ちゃんには私の服を貸している。


社から帰ってくる途中で立ち寄ったコンビニで買ったアイスがたらりと溶けて腕をつたい、慌ててかぶりつく。


「始まりは一ヶ月くらい前……だと思う。その頃からものが無くなったり位置が動いてたり、"あれ?"って思うことが何度かあって。でも家族の誰かがやったんだと思ってたの。でもここ数日前から、急に酷くなってきて」


青い顔を更に青くした恵理ちゃんは俯いて膝の上できゅっと手をにぎりしめる。

堪らずその手に自分の手を重ねた。



詳しく話を聞けば、最近では和室の襖に黒い手形が付いていたり、地震では無いのに家が揺れ、お父さんが仕事先で怪我をおったりなんてこともあったらしい。

ただ事ではない事態にみんなもどんどん険しい顔になる。



「家族全員、家の中が重苦しいって口を揃えて言うの。私もそう思う。なんだか強い力で押さえつけられているような圧迫感があって、それはもう"気のせい"とか"勘違い"の域を超えているくらいひどくて」


思い出すだけでも恐ろしいのか、恵理ちゃんは肩を震わせてぽろぽろと涙を流した。