それを横目に、芽さんは喜々先生に向き直る。
「二つ目。喜々、そろそろ俺のところ来る気になった? 結構空亡の残穢も集まってきてるし、いい線行ってると思うんだけど」
差し出された手を喜々先生は一瞥した。
「私の答えは前と変わらない」
「くそー、まだ駄目? 喜々は厳しいな」
心から楽しそうにくすくすと笑った芽さん。やがて「分かったよ」と肩を竦めた。
「最後、三つ目。巫寿ちゃん」
名前が呼ばれてハッと顔を上げる。
光を灯さない瞳と目が合って、まるで闇に吸い込まれてしまいそうな焦燥感が胸に渦巻いた。
「巫寿ちゃん、今どんな気分?」
答えなくていい、と鶴吉さんが私の肩を掴んだ。
「ちょっと君。余計なこと言ったら喜々の首の骨へし折るよ?」
そう言って喜々先生に手を伸ばす。
「やめてくださいッ!」
ほぼ反射で、芽さんの前に飛び出した。
みんなが後ろで私の名前を呼んだ。下がれ、戻れ、と焦った声が聞こえる。
震える膝に力を入れて、芽さんを正面から睨んだ。
「怒ってます……ッ! 薫先生は芽さんの弟なんですよね!? どうしてこんな酷いことを、喜々先生だって友達なんでしょう!?」
「おお、いいね。怒ってるのか。巫寿ちゃんの中の呪がどんどん高まってる」
私の言葉なんて耳に届いていないような素振りで、芽さんは顎に手を当て満足気に頷いた。