大股で歩み寄った薫先生はその勢いのまま拳を振り上げ、芽さんの左頬を思い切り殴り飛ばした。
嫌な音がして、芽さんはその場に転がる。
薫先生はお構い無しに、その上へ馬乗りになった。
「っ……相変わらず手が早いなぁ。昔もよくこうやって取っ組み合いの喧嘩したね、薫」
「お前と話す気は無い。このまま本庁にお前を突き出す」
「折角"お兄ちゃん"との再会なんだから、もうちょっと楽しい話をしようよ」
「黙れ……ッ!」
声を荒らげた薫先生を初めて見た。
その声は呪と怒りで満ちているはずなのに、薫先生の横顔はまるで泣いているかのようにとても悲しそうだった。
「分かった分かった。もう黙るよ、その前に三つお兄ちゃんから言いたいことがある」
芽さんはふふ、と愉しそうに笑った。
「一つ目。俺を縛りたいなら物理的に縛らなきゃダメだよ。特にお前はね、薫。お前の言霊は俺には効かないんだから。自分でもよくわかってるはずだろ」
縛られていたはずの両手をすっとあげた芽さんに薫先生は目を見開いた。
その手は目にも止まらぬ早さで薫先生の胸ぐらを掴むと、まるでボールでも投げるかのように薫先生を投げ飛ばす。
橋の柱に背をぶつけた薫先生は力なくその場に尻もちを着いた。