そんな表情を見れば「もういいよ」と許してしまいたくなるのだけれど、流石はお兄ちゃんといったところか、嘉正くんだけは揺るがない。
「泣くな。泣いてもどうにもならないだろ。その人、どんな人だったんだ?」
唇をすぼめて泣くのを我慢する嘉明くん。
嘉正くんもうその辺で、と言いかけたその時「あ」と嘉明くんが声を上げてすっと指をさした。
「その人」
全員が弾けるように振り向いた。
「わ、びっくりした。俺が驚かそうとしたのに」
まるで私たちの輪の中に最初からいたかのように、その人は違和感なくそこに立っていた。
驚きと困惑と、計り知れない恐怖が胸の中にぶわりと広がる。
いつから、どうやって?
だって音はしなかったのに。
それよりも、なんでここに────。
「や、巫寿ちゃん。3ヶ月ぶりくらい?」
片方しか見えていない目を細めて、人のいい笑みを浮かべた。
少し長い黒髪に片目を隠す眼帯、整った顔立ちは薫先生にそっくりな────。
「芽、さん……」
名前を呼んだ自分の声は僅かに震えていた。