思わずぷっと吹き出した。

相変わらず「ありがとう」も「ごめんなさい」も下手くそな人だな、と心の中で息を吐く。


「私達も一学期は散々恵衣くんに迷惑かけたし……ごめんね。あと、ありがとう。恵衣くんがいたから、皆を助けれた」

「迷惑はかけられたから謝罪は受け取るが、俺は何もしていないからその感謝は不要だ」


真剣にそう思っているらしい。

感謝の言葉なんて貰ったら何も考えずに受け取ればいいのに。変なところで真面目なんだから。



「三学期はなるべく迷惑かけないように頑張ります……これ以上嫌われちゃったら、気まずいし」



冗談にほんの少しの本音を混ぜて肩をすくめる。

恵衣くんは眉根を寄せてじっと私の目を見た。



「お前らは迷惑だし馬鹿だしやたらお節介なのがかなり鬱陶しいけど、嫌いではない。いや、少し前まで大嫌いだったけど、今はまあ普通だ」



オブラートに包まずド直球な言葉にもう苦笑いしかできなかった。

けれど嫌われていたと思っていた恵衣くんが、"普通"だと言ってくれたんだ。それだけでも進歩だ。



「急いでたんだろ。呼び止めて悪かった」

「あ、そうだった……! じゃあ、また教室でね」

「ああ……巫寿」



ふ、と目尻を下げて優しい顔を浮かべた恵衣くんが私の名前を呼んだ。

その瞬間、ばくんと心臓が跳ねたのを感じた。

びっくりして、急に恥ずかしくなって、うん、と消え入りそうな声で頷くと、逃げ出すようにその場から走り出す。

どっどっと鼓動が早いのはきっと走っているからだ。