奉納舞が終わってその足で社頭を横切っていた。この後庭園の反橋のところでみんなと待ち合わせをしている。

予想外の出来事で少し時間を取られてしまったので、急がないと皆を待たせてしまう。


急げ急げ、と足を早めたその時、



「巫寿!」



突然誰かから名前が呼ばれて、足を止めた。

声が聞こえた方を振り向くと、そこに立っていた意外な人物に目を丸くした。




「恵衣くん……?」



いつもと変わらない不機嫌そうな顔をした恵衣くんがじっと私を見ている。

あれ────今、私の名前……。



「恵衣くん、今────」

「うるさい、だからなんだよ」

「もう……なんでそんな言い方しか出来ないの?」


ちょっと嬉しかったのに、というのは口に出すのは辞めた。

何か言いたげな顔で視線をさ迷わせる恵衣くんを不思議に思いながら黙って待つ。



「……助かった。お前らのおかげで、声が戻った」



長い沈黙の後、風に掻き消されそうな程小さな声だった。



「あと、これまでのお前らに対する態度について、一部謝る」



すごく顔を歪めながら、すごく不本意そうに恵衣くんはそう言った。

「一部なんだ」と思わず声に出してしまい、「うるさい! 一部で十分だ!」と恵衣くんが噛み付く。