寮の作りは5階建ての大きな建物だ。初等部低学年が5階、初等部高学年が4階、中等部が3階で高等部が2階、中央階段を隔てて部屋割りが男女で別れている。1階は寮監の部屋と共有の広間やお風呂、厨房がメインだ。
階段は中央と東側にあり、南側の外壁に鉄製の非常階段がある。
私は勝手口から入って、表玄関から来る泰紀くんと合流して中央階段を登る手筈になっている。
祝詞を唱えながら火打石を鳴らし、ひんやりした夜の廊下を歩いた。
今のところ、祝詞の効果が感じられるような事は一切起きていないけれど、本当に大丈夫なんだろうか。
「神火清明 神水清明 祓い給え 清め給え……」
不安になりながらも祝詞を奏上し、火打石を左右左と二回ずつ打ち付けた次の瞬間、散った火花が床に落ちてボッと大きな火玉になって消えた。
驚いてわっとたたらを踏む。
「な、何……?」
恐る恐るスマホのライトを当てて燃えて黒ずんだ床に顔を寄せると、にょろにょろした形の物体が真っ黒に焦げて干からびていた。
うわ、と顔を顰めた。
間違いない、これが応声虫だ。おおかた神火で体が燃えて、残穢が残ったんだろう。
すかさず祓詞を奏上すれば、黒焦げのそれは光のつぶになって空気中に溶けていく。
完全に消え去って、ほっと息を吐いた。



