祝詞を口ずさみながら心の中で強く願う。
彼は悪意があって石灯籠を倒した訳ではありません。だからどうか、気を鎮め許してあげてください。
倒れた石灯籠は私たちが責任をもって元に戻します。彼が取ってしまった石も綺麗に磨いて元に戻します。
必ずまたここを、貴方が大切にしていた場所と同じ状態になるようにします。
たがら、どうか気持ちをお鎮めください。
「────過ち犯しけむ禍事を見直し聞き直して教へ給ひ諭し給ひ霊の真澄の鏡弥照りに照り輝かしめ給ひて愈愈高き大命を寄さし給ひ身は健やかに家内睦び栄へしめ給ひ永遠に天下四方の國民を安けく在らしめ給へと恐こみ恐こみも白す」
最後の一句を奏上したその途端、背後でどさりと何かが土の上に落ちる音がした。
弾けるように振り返ると、宙に浮いていた男の子が土の上に倒れている。
駆け寄った嘉正くんが「祓詞」を奏上する声を聞く。
土の上に転がった球状の石にそっと触れる。触れることも出来ないほど熱かったはずのそれは、触ると指先がひんやりとした。



