────寄生虫みたいに人間の体内に寄生する怪虫だ。風邪みたいな症状が数十日続いた後、腹に出来物ができる。その出来物が次第に口のような形になってそいつの声を奪い、代わりに罵詈雑言を発する妖だとされている。
文殿で恵衣くんのお腹にできた小さな出来物を指さしながら、亀世さんはそう言った。
────こいつは人の悪の部分に漬け込んでくる怪虫だ。だからここからは予想だが、元々言祝ぎが強い神職に寄生したせいで、その一番最後の症状が出ずに風邪の症状と失声が目立っていたんだろう。
直ぐに調薬室に戻った私達は、ありとあらゆる薬を煎じた。
寄生した応声虫を体から追い出すには薬を煎じる方法しかないらしい。
色々と煎じた薬の中で虫下しの薬が一番効果があると分かった。飲んだ数十分後にトイレへ駆け込んだ恵衣くんが、帰ってくるなり「声、戻りました」と驚いた顔で言ったからだ。
その日のうちに私たちは医務室へ駆け込んだ。もちろん入った瞬間に陶護先生に叱られたけれど、必死に自分たちで調べたことの全てを伝えた。
初めは半信半疑だった陶護先生も声の戻った恵衣くんを診察して、試す価値はあるかもしれないと唸る。
そこからはあっという間で、神職さまや先生たちが集められて症状が比較的軽い自室療養の生徒数人に投薬の治療が始まった。
豊楽先生曰く、薬の効果がはっきりしている訳では無いので、直ぐに全ての生徒に投薬することは出来ないのだとか。
それでも二三日して効果がハッキリすれば、直ぐに全ての生徒が治療を始めることが出来るらしい。
医務室は人で溢れかえり、事情聴取が終わった私たちは外へ追い出された。
恵衣くんは経過観察のために、今日から数日入院になるらしい。
医務室から追い出される直前に、豊楽先生が私たちに向かって「お手柄だったな」と笑った。
寮への帰路に着いたのは、月が頭の上に登る真夜中の事だった。