文殿へ移動した私達は亀世さんの言葉に従い、"声"に関する資料を片っ端から探した。
声に関する妖怪や憑物の数は思ったよりも少なくて、私が調べて出てきたのは山彦やうわん、あとはギリシア神話に出てくる海の怪物セイレーンくらいしか見つけ出せなかった。
これと病気の症状が関連するとは思えないけれど、一旦付箋を付けて亀世さんの所へ持っていく。
みんなが集めた資料の真ん中に座り込んで読み耽る亀世さんは、これまで以上に真剣な眼差しで文字を追っていた。
「なぁ巫寿、川赤子って関係あると思うか?」
泰紀くんがポリポリと頬を掻きながら私に本を差し出す。
「確か、赤ん坊の泣き声で人を誘き寄せて川に落とす妖怪だよね?」
「ああ。これも一応"声"には関連するけど、どうなんだ?」
「分かんない……でも亀世さんは全部もって来いって言ってたし、渡してみようよ」
「だな。サンキュ」
泰紀くんが持ってきた本を、資料の山に重ねようとしたその時だった。
突然亀世さんが弾けるように立ち上がって、資料の山が音を立てて崩れた。
「うわっ、おい亀世! 何やってんだよ!」
鶴吉さんが悲鳴をあげるも一切耳には入らないのか、亀世さんは一冊の本を片手にずんずんと大股で歩き出す。
その先にいたのは────恵衣くんだ。



