「なぁ巫寿、ちょっといいか?」


今日は朝から調薬室で、亀世さんと慶賀くん指導のもと解熱剤の量産に勤しんでいた。

できた薬は漢方薬学の豊楽先生にチェックしてもらってから医務室に送られる。

これまで咳止めや頭痛薬などいろいろな漢方薬を作って豊楽先生に渡してきたけれど、先生はそれを咎めることなく黙認してくれている。


桂皮と芍薬を天秤ばかりで(はか)っていると名前を呼ばれた。


手を止めて顔を上げると奥のテーブルにいた亀世さんが「ちょっと来てくれ」と手招きする。



「恵衣くん、ちょっと抜けるね。ここまで量り終わってる」



同じテーブルで作業していた恵衣くんにそう声をかけると、彼はちらりと私の手元を見ると返事も反応もなく黙々と作業を進める。

夜中に厨房で会って以来、恵衣くんは私と目を合わせるどころかスマホを使って会話をする事すらしてくれなくなった。


他のみんなにもそんな様子だけれど、自分はとりわけ露骨に避けられている気がする。

余計に嫌われちゃったのかな、とちょっとだけ落ち込んだけど、そもそも初めから嫌われているし今更だろう。


断りを入れて立ち上がり、亀世さんのテーブルに歩み寄る。