「亀世さんが聖仁さんのことを呼んでて。戻って来るのが遅かったので探しに来たんです」
「え? うそ、もうそんなに時間たってる?」
「えっと40分くらいは」
あちゃー、と首の後ろをさすって苦笑いを浮かべた。
「申し訳ない。あと5分くらいしたら戻れると思うから」
「聖仁さん……あの、何を」
「ああ、心配しないで。ただ祝詞奏上だよ。祈念祝詞、一年生の三学期に習うやつ」
「祈念祝詞……?」
「そ。家内安全と無病息災のね。少し前から毎日百回奏上するようにしてるんだ」
百回、と息を飲む。
言霊の力は言い換えれば体力のようなもの、使えば少しづつ削られていく。それを百回も繰り返すとなれば、きっと以前の私のように力の使いすぎで気を失ってしまうはずだ。
聖仁さんならその事を分かっているはずなのに、分かっていても止めない理由は、きっと────。
「拝殿だと神職さまに見つかっちゃうから、裏でこそこそ奏上してたんだ」
目を細めた聖仁さんは姿勢を正して、また胸の前で手を合わせた。