「振り出しに戻った感じだね」
翌朝の文殿。
管理人の神職さまにバレないように窓から中へ侵入した私たちは、それぞれの棚に散ってまた情報収集を再開した。
憑物の棚を一緒に見ていた来光くんが潜めた声でそう言う。
そうだね、と相槌を打った自分の声は思ったよりも気落ちしていた。
嬉々先生なら何か知っているのではないかと思ったけれど、薫先生の証言で潔白が証明されて、あのノートもただの研究を記すためのノートなのだと分かった。
────初等部の頃からずっと、調べた呪いや憑物の事をまとめるノートを作ってるんだよ。俺も見たことあるし。
薫先生の言葉を思い出す。
嬉々先生は犯人ではなかった。個人的に今回の流行病について研究しているだけらしい。皆納得はしていないようだけど、薫先生があそこまで言うならそうなんだろう。
嬉々先生が犯人じゃなかったことにガッカリしているわけではないけれど、来光くんの言う通り状況的には振り出しに戻った訳で、それに想像以上に私達にとってダメージが大きかった。