「────はい、深く息吸ってー」


放課後、もとい学年閉鎖後の調薬室。

丸椅子に半ば無理やり座らされた恵衣くんの前には聴診器を耳にかけた亀世さん。

恵衣くんの後ろにはその肩をがっちりと抑え込む慶賀くんと、それを取り囲むのは一年の私たちに聖仁さんに鶴吉さんだ。


「はーい、ちょっと服捲りますね〜」


慶賀くんがおどけた声で恵衣くんの服に手をかける。

バチン、と痛そうな音が響いて慶賀くんは頬を押えて蹲った。



「ただの悪ノリだろ!? 本気で殴ることねーじゃん!」



目尻に涙を浮かべてそう抗議する慶賀くんにフンと鼻を鳴らす。



「慶賀うるさい。ちょっと黙れ」

「亀世パイセンまで……ひどい……」



しくしく泣き真似を始めると余計に睨まれて、慶賀くんは肩を落として隅で静かになった。



放課後の調薬室には亀世さんが勝手に作った合鍵で侵入した。

豊楽先生は合鍵の存在を知っているらしいけれど、他の教室で爆破されるよりも消化設備が整っている調薬室で爆破される方がまだマシという事で黙認しているのだとか。


言われてみれば確かに他の教室に比べたら、針金入りの窓だったり壁が分厚かったりやたら消火器が多い。