恵衣くんの声に耳を済ませた。

相変わらず祝詞を奏上する声だけは尖っていなくて、春の木漏れ日のように優しく温かい。

性格もこうなればいいのに、なんてこっそり心の中で思いながらその声に聞き入った。


「生座《あれませ》る祓戸《はらいと》の大神等《おおかみたち》 諸《もろもろ》の枉事《まがごと》罪《つみ》穢《けがれ》を 拂《はらい》ひ賜《たま》へ 清《きよ》め賜《たま》へと……」


突然、不自然な箇所で奏上を止めた恵衣くんにみんながパッと顔を上げた。



「恵衣さん? どうかしましたか?」



その問いかけにも答えない恵衣くん。


急にどうしたんだろう?


不思議に思いながら振り向くと、私たち以上に困惑した表情を浮かべた恵衣くんが自分の喉を抑えて立ち尽くしていた。



「恵衣さん?」


名前を呼ばれて、恵衣くんは口を動かした。

しかし喉から声は出てこず、痛みがあるのか顔を顰めて何度も喉を鳴らす。



「恵衣さん、もしかして声が……」



その問いかけに苦い顔でひとつ頷いた恵衣くんに、みんなが息を飲んだ声が聞こえた。

奏楽先生は眉根を寄せて教科書を閉じると、直ぐに恵衣くんに駆け寄ってその肩を抱いた。



「今日の授業は終わりです。巫寿さん、次の科目担当の先生に恵衣くんが医務室へ行っていることを伝えてください」