「……であるからしてこのふたつの祝詞は似た効果をもたらしますが、言祝ぎと呪を込める割合が異なっている訳です」
黒板にチョークをトンと当てたそう楽先生が手の粉を落としながら振り返った。
「皆さんここまで大丈夫ですか?」
はーい、と声を揃えて返事をした私たちを満足気に見回すと、顔の前で手を打つ。
「はい、よろしい。では、今習ったことを意識して、このふたつを奏上してみましょうか〜」
今日の声楽の授業は、似た効果をもたらす異なる祝詞の発声の違いについての授業だった。
嬉々先生について色々と気になることはあるけれども、今は授業に集中しなきゃと気持ちを切り替えてシャーペンを握る。
「それじゃあ、今説明した通りの割合で、ふたつの祝詞を奏上してみて下さい。恵衣さん、やってみましょうか」
「はい」
指名された恵衣くんが、ペンを置いてその場で立ち上がる。
「高天原に神留座す 神魯伎神魯美の詔以て 皇御祖神伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の 阿波岐原に御禊祓へ給ひし時に……」