蝦蟇、ヒキガエルの俗称だ。
蝦蟇に憑かれた人の症状として耳が爛れたり膿が出たり、耳に関する症状が多いのだと教科書には書いてあった。
憑物の症状は普通の病気の症状とは違って、奇抜な症状が多い。
たとえば狐憑きなら、目付きが鋭くなって大食いになり、油をそのまま飲み干したりもする。
蛇付きなら四肢が腐り始め、狸憑きなら何度も気絶して人格が変わったように振る舞い体から毛が生えてくる。
文殿で例の原因不明の症状について調べている時、私は憑物に関連する書物を調べたけれど、風邪に似た症状をもたらす憑物はいくら探しても出てこなかった。
憑物じゃなかったとしたら、やっぱり何らかの呪いなんだろうか。
ノートの隅に「呪い?」と小さく書いてみる。
ふと手元に影がさしてハッと顔を上げた。
不揃いの長い前髪の間から不気味な目が私を見下ろしていた。思わず唾を飲み込んだ。
その目から、目が逸らせない。
私のその落書きをちらりと見た嬉々先生の血色の悪い薄い唇が弧を描いた。
背筋にぞわりと冷たいものが走る。