「これは?」

「読んだ」

「了解」



静かな文殿には淡々と書物の頁をめくる音が響く。


季節は過ごしやすい秋風が吹くようになって、夜に鳴く虫の声も移ろい始めた。

けれど依然として、神修の校舎は重苦しい空気が漂っている。

部活動も変わらず自粛号令が出たままで、放課後から門限の間の時間を使って私たちは毎日文殿に集っていた。



目頭を抑えながらぐるりと首を回す。かたまった肩を拳で叩きながら、隣の席に並んで座るみんなを見た。


二年生の聖仁さん、聖仁さんと同じクラスの亀世さんと鶴吉さん。

そして慶賀くん、泰紀くん、来光くん。


お調子者の二人でさえもが、一言も話さずに必死に書物の文字を追っている。

みんなの表情は切羽詰まっていて今にも泣き出しそうなほどに必死だった。



まねきの社の瑞雲宮司(ずいうんぐうじ)によって執り行われた平癒祈祷の儀は、効果を発揮しなかった。

実際には祝詞奏上は上手くいったし一部の怪我や病気が癒えたので効果はちゃんと発揮されているのだけれど、誰もが効果の発揮を願っていた例の病には少しも効き目がなかったのだ。