「お、お望み通り……もう戻るからっ」
できる限り嫌味っぽく言って、胸の前で傷がついた手を抱き締めながら歩き出す。
ただ心配で差し出した好意も振り払われて、その上あの言い様だ。
すごく腹は立ったけど、それ以上に何だかすごく泣きたい気分だ。
目頭が熱くなるのを感じながら、恵衣くんの隣を通り過ぎたその時、
「おい」
突然背後から二の腕を掴まれた。
「何……っ」
精一杯睨みつけるように振り向けば、これまでで一度も見たこともない顔をした恵衣くんが私を見下ろした。
「な、泣くほど痛むのか……?」
眉根を寄せた険しい顔だけれど、その表情はどちらかと言うと不安や動揺の色が濃い。
忙しなく目を動かした後、伺うように私と視線を合わせた。
指摘されて、涙は堪えきれていなかった事に気が付いた。
はっと頬に手を当てて濡れた目尻を袖で拭った。すん、と鼻を啜って恵衣くんを見上げる。
弱ったように首の後ろを摩った恵衣くんは「……来い」と小さな声で言うと、私の手首を掴んで歩き出す。
振り解けばすぐにでも離れそうなほどの力だったけど、大人しく手を引かれることにした。