「でも、」
「何なんだよ、馬鹿にしてんのかよ! 俺が殴られてんの見て満足か!? ざまあみろ、情けないって思ってんだろ!?」
怒鳴り声と、思ってもみなかった言葉にたじろいだ。
ここに居合わせたのは偶然だし、話を聞いてしまったのも成り行き。それに聞いてはいたけど何の話かは分からなかったし、分かったからと言って馬鹿にしたりはしない。
ふつふつとした怒りが湧き上がり、むっとしながら顔を上げて言い返した。
「な、なんでそうなるの……! そんなこと思ってないよ!」
「だったらとっとと行けよッ! 関わんなつってんだろ!」
恵衣くんは手の甲で乱暴に唇の端を拭う。直ぐには止まらないのかまた血が滲み始めて顎を伝う。
痛みがあるのか顔を顰めた。
「あ……そんな風にしたら、広がっちゃ────」
咄嗟にポケットに入れたハンカチを差し出して歩み寄る。
「しつこいんだよッ!」
差し出したハンカチは振り払われた。土の上にぱさりと堕ちる。
振り払う時に当たった恵衣くん爪が私の手の甲を引っ掻いた。
痛みは無いけれど赤い線が出来て、驚いて手を引っこめる。
「な……ッ!」
私以上にその傷に驚いていたのは恵衣くんだった。