本庁の庁舎へ衣装を返しに行って、また庭園に戻ってきた。
川沿いの客席は片付けられていたけれど、反橋の上には月を楽しむ人達がまだちらほらといた。
門限外の外出を許可されているとはいえ制服姿は目立つ。人目を避けるために、庭園から屋外演習場へ繋がる階段に向かった。
そこを使うのは学生くらいだし、先生や神職さまに見咎められることもないだろう。
月を見上げながらのんびりと川沿いを歩いていると、丁度私が向かっていた階段の前に人影を見つけた。
誰だろう、と首を傾げながら目をこらす。
私と同じ松葉色の制服、切れ長の目に不機嫌そうな口の男の子とそっくりな顔をした男の人。
「恵衣くんと……お父さん?」
本庁の役人を示す黒いスーツに恵衣くんそっくりな横顔は、間違いなく彼のお父さんだろう。
何か話し込んでいるようで、恵衣くんとは大して仲が言い訳でもないから近付きにくい。
別の場所にしようかな、とくるりと背を向けたその時。
パンッ────と乾いた音が響いた。