「そう思えたなら、もう言うことなしだよ」

「え?」

「前に話したよね、舞う上で一番大切なことの話」


そう言われて、「あ」と思い出す。一学期の神話舞の練習中に聖仁さんと話した時だ。

舞は上手い下手は関係ない。大切なものはもっと他のところにある、と言っていた。

それ以上は教えてくれなかったし、私も今の今までその言葉を忘れていた。


「神職が舞う舞は本来、神様に楽しんでもらうためのものなんだよ。だからまず舞手である巫寿ちゃんが楽しまないと、気持ちは届かないわけだ」


聖仁さんはすっと反橋を指さした。つられて視線を向けると、反橋の上ではまねきの社の本巫女さまたちが浦安の舞を踊っていた。

どの巫寿さまも優しい表情を浮かべてどこか楽しそうに舞う。


「一番大切なことは……自分が楽しむこと?」

「そ。自分が楽しんだ先に、相手を楽しませることが出来る。だからその気持ちで舞えた巫寿ちゃんは百点満点」


目を瞬かせながらもう一度反橋を見上げた。


自分が楽しんだ先に相手を楽しませることが出来る、舞を舞う上で一番大切なこと。

瑞祥さんと聖仁さんの奉納舞を初めて見た時、お母さんの演舞をビデオで見た時、すごく胸が高鳴って目が離せなかった。