言祝ぎの子 弐 ー国立神役修詞高等学校ー



月を見上げ、虫の音色や川のせせらぎを聞き、聖仁さんの動きを感じながら舞う。

今まで見えていなかったものがよく見える。五感がいつもよりも鋭い、まるで自分じゃないみたいだ。


今までは自分の振り付けのことでいっぱいいっぱいだったはずなのに、自然と笑みが零れるほどに今この瞬間がとても心地いい。

このままずっと続けばいいのに、とすら思う。



観ている人達も、私と同じように感じてくれていたらいいな。月と私たちの舞を楽しんでくれたらいいのにな。

そんな気持ちで最後の一節を舞った。



終わってしまうのが寂しいなんて、数週間前の私が聞いたら絶対にびっくりするだろう。

くすりと笑った次の瞬間、争の弦がピンと最後の音色を奏でた。


はっ、と我に返った。いくつもの目が、反橋の上の私たちを見上げていた。

その場に膝を着いた聖仁さんに合わせて慌てて深々と一例をする。

顔を上げたその瞬間、一人の小さな拍手はやがて庭を包み込むほど大きな喝采になった。



肩で息をしながら、他人事のように目を丸くしてその光景をただぼんやりと見つめる。


終わった────終わったんだ。



「巫寿ちゃん……! 次来るから、早くはけるよ」


背中を押されて歩き出した。

終わった事がまだ信じられなくて、ぽかんとしながら拍手の中を歩いていく。


反橋を降りて待機場所の椅子に座った。もう拍手は止んで次の曲が始まっていた。