三日三晩祓詞を奏上することがどれほど大変なのかは分からない。

けれど以前須賀真八司尊(すがざねやつかのみこと)や恵理ちゃんの家の土地神と出会った時に感じた感覚と近いということは、瑞雲宮司は神に近い存在まで自分の言祝ぎを高めたということだ。

考えなくてもその凄さは理解できる。



祭壇の前、真ん中に立って深々と一礼した瑞雲宮司は懐から紙を取り出し広げた。



掛巻(かけまく)も畏き大神(おおかみ)大前(おおまえ)に (かしこ)(かしこ)みも(もう)さく 去し頃より疫病(あしきやまい)(かか)りて悶熱(あつかい)燠惱(なやみ)むに()りて 病の禍物(まがもの)(のぞ)(はら)はむとして 四方八方(よもやも)の 治療(おさめ)(すべ)(つく)(はげ)めども 今は(ひろ)き尊き大神の御恵(みめぐみ)乞仰(こいあお)(まつ)(ほか)(あら)じとして────」



暖かい水の中に頭からとぷんと潜っているような心地だった。その世界全てが自分に優しくて心地よい。

体の芯をじんわりと温め、温かさは血液のように体を巡る。疲れた体を癒し力が湧いてくる。


思わず手のひらを見つめた。



「大神の廣前(ひろまえ)禮代(みやしろ)御饒(みけ)御酒(みき)捧奉(ささげまつ)りて (おが)(まつ)(さま)(たいら)けく (やす)けく 聞召(きこしめし)て 千早振(ちはやふる)禍神(まがかみ)(すさ)()る事無く神掃(かむはらい)(はら)(たま)ひ 大神(おおかみ)の厚き恩頼(みたまのふゆ)に依りて 速く元の(すこやか)な身に立歸(たちかえ)らしめ給ひて心清々しく 家業(なりわい)(いそし)み (つと)めしめ給ひ……」


あっ、と声を上げそうになって咄嗟に口元を押えた。


はっと自分の足元を見つめる。

つま先から踵まで、足の裏が春の日の草むらを踏んでいるようにじんわりと温かい。