平癒祈祷の神事は観月祭の開式のあと、そのまま神楽殿で行われるらしい。
開式の用意は整っているのか本庁の役人さんたちが、忙しそうに準備に走り回るまねきの社の神職さまたちを煩わしそうに見ていた。
「何だかバタバタしてますね」
「本来大きな神事は何ヶ月も前から用意するものだからね」
私と聖仁さんは客席の隅に座って舞台を眺める。
「そうだ、コレ」
思い出したように聖仁さんは手に持っていた物を掲げた。
黄金色のススキだ。
神楽殿に入る前に本庁の役人が参列者に配っていた。私も同じものを貰っている。
「左の手首に結ぶんだよ。これも衣装のひとつだから、ちぎれないようにね」
「はい」
手首に巻き付けるようにして結ぼうとするも片手では上手くいかずポロリと地面に落としてしまう。
くすくす笑った聖仁さんはそれを拾い上げると私の手を取った。
するすると器用に結んでいく。
「キツくない?」
「はい。ありがとうございます」
穂の部分が手首に当たって少しくすぐったい。



