「しっかり勉強していくんだよ。この社はいい教科書になる」
私たちの返事に満足気に頷いたババは、授与所へ向かって歩き出した。
隣を歩いていた来光くんに声を潜めて尋ねる。
「ねえ、もしかして今のって……」
「うん、妖。山姥だよ」
教科書では見たことはあるけれど実際の山姥は想像していたよりも随分と馴染みやすい姿をしていた。
あんなお婆さんが歩いていても、妖だなんて誰も思わないだろう。
「みんなどうしたの? 急に立ち止まったりして」
私たちが着いてきていないことに気がついた恵理ちゃんが小走りで戻ってきた。
慌てて首を振って「なんでもないよ」と笑う。
「早く行こ! わたあめ売り切れちゃうよ〜」
私の手を取って、恵理ちゃんは走り出した。