夕方の自主練が無くなったことで、聖仁さんは調べ物を再開するつもりらしい。棚の本を物色し始めた。
ちょいちょい、と私に向かって手招きした亀世先輩に不思議に思いながら歩み寄る。
ここ座れ、目の前の椅子を促されてストンと腰掛けた。
テーブルの上に広がるノートや書物の山をちらりと盗み見る。
詳しくは分からなかったけれど漢方薬に関連する物のようだった。
「何の調べ物ですか?」
「学校内で流行ってる例のアレだよ。────ほら靴下脱げ、傷口見てやるから」
お礼を言いながら靴下を脱ぐ。
よ、と私の足を持ち上げて自分の膝の上に置いた亀世さんの細い指が擽ったくて肩を竦めた。
「亀世さん達も変だなって思ってたんですか……?」
「ああ。明らかに流行り物の病の類では無い。本当は漢方学部の奴らと調べたかったんだが、部活が自粛になったからな。こいつらに手伝わせてる。……っと、少し沁みるぞ」
「ったくー。今度俺の調べ物も手伝えよな、亀世」
これはどう?と鶴吉さんが差し出した書物を一瞥して「違うな」と首を振った亀世さん。
鶴吉さんはすかさず付箋にバツ印を書いて背表紙に貼ると慣れた手つきで棚に戻した。