「うわっ、本当にごめん! 富宇先生との稽古は終わっちゃったよね!? 今から自主練付き合うから!」


聖仁さんは大慌てで散らばったテーブルの上を片付け始める。

行こう!と勢いよく立ち上がった瞬間ふらりと体の軸が傾いて、そのまま激しい音を立てて椅子を倒して床に座り込んだ。


「おうおう、ちたぁ落ち着け」

「大丈夫かよ聖仁」


鶴吉さんが手を引っ張って椅子に座らせると、流れるように亀世さんが聖仁さんの目の下を引っ張る。

青い顔をした聖仁さんはされるがままになっていた。


「貧血だな。寝不足とストレスだろ」


制服のポケットをあちこち触った亀世さんは左のポケットに目当てのものが入っていたらしく、取り出すなり遠慮なく聖仁さんの口へねじ込んだ。

聖仁さんは何とかそれを飲み込んで顔を顰めた。


「……ありがとう亀世。一応聞くけど、これちゃんとした薬だよね?」

「もちろん、ただのきつけ薬だ。乾燥させた砂肝も混ぜてるから貧血にもいいぞ。豊楽先生の認可は取ってないけどな」


ごふ、と咳き込んだ聖仁さんの背中を鶴吉さんが笑いながら叩く。

何だかどの学年も似たような光景が繰り広げられているんだな、と少し遠い目をした。