私じゃなくても。
「月兎の舞にはふたりで手を取って舞うパートがあったでしょ。盛福や玉珠じゃ身長が足りないんだ。部員以外の女子学生も考えたけど、正直授業程度でしか舞を習っていないから、今からじゃきっと間に合わない」
「でも、」
「自分の代わりは巫寿に、そう瑞祥が頼んできたんだ」
瑞祥さんが……。
目を見開いた。
「巫寿ちゃんなら瑞祥とは五センチ程度しか背丈が変わらないから、俺も練習すればある程度は合わせられると思う。それに、巫寿ちゃんはいつも自分を卑下しがちだけど、間違いなく今は他の二三年よりも君の方が上手い」
聖仁さんは目を逸らさずに真っ直ぐと私にそう伝える。
お世辞やその場限りの嘘でそういったのでは無い事はよく分かった。
「俺も、巫寿ちゃんに頼みたいと思ってる」
瑞祥さんがあんな事になって大変な状況で、私を頼ってくれた事は嬉しかったし助けになりたいとさえ思っている。
ただ、それは私が出来ることの範囲の中であって、瑞祥さんの代役は間違いなく私が出来ることの範囲外だった。