「多分観月祭には間に合わない」
咄嗟に口を押えたけれど、言葉は出なかった。かける言葉がなかった。
観月祭のリハーサルを思い出した。
『お前たち、来月には本番なんだぞ。そんなレベルで演舞する気か?』
狸みたいな丸いお腹の本庁の役員の人に舞台の上でそう叱られている二人を思い出す。
何度も何度もやり直しをさせられて、ようやく解放された頃には二人とも汗だくになっていた。
私が差し出した水を一気に煽った瑞祥さんは、全部飲み干すと「くそっ!」と大きな声を出す。
『なんだよあの狸ジジイ! ネチネチネチネチいちゃもんつけやがってクソがーっ!』
『こら瑞祥、呪が強いよ』
『聖仁は腹立たないのか!?』
ははは、と笑った聖仁さんも水を一気に飲み干すと空になったペットボトルを片手でメリッと握り潰した。
私と瑞祥さんはひゅっと息を飲む。
『あいつ、黙らせるよ瑞祥』
『お、おう……! 去年よりも完璧にして、全員驚かせてやろう!』
その日、二人はリハーサルが終わったあとも本庁の人に頼んで残って練習をしていた。
その時の二人の真剣な顔はきっと忘れることは無いだろうと思いながら見ていた。