「あ、もうすぐ社頭に出られるよ」
来光くんが階段の先を指さして、みんな駆け足でてっぺんまで登りきる。
ずらりと並んだ屋台と夜を照らす橙色の提灯にわっと感嘆の声を上げた。
階段の前から拝殿までの参道を挟むようにしてたくさんの屋台が軒を連ね、賑やかな声で人を呼び込んでいる。
しめ縄の掛けられた大きな御神木の前には櫓が組まれていて、その上では和太鼓や龍笛、摺鉦によって心地よい祭囃子が奏でられていた。
参拝客たちの鮮やかな浴衣が夜に映えて、とても綺麗だった。
「すっげー! 俺イカ食いたい!」
「俺は焼きそばとフランクフルト!」
駆け出そうとした慶賀くんと泰紀くんの首根っこを、嘉正くんが素早く捕まえる。
ぐえ、と苦しそうな声を上げたふたりは恨めしそうに嘉正くんを睨んだ。
「何すんだよぅ!」
「馬鹿! 遊ぶよりもその前に、まずは御祭神の結眞津々実尊に挨拶してからだ」
あ、と声を上げたふたりは直ぐに「わ、分かってるって!」と弁解する。
どうだか、と嘉正くんがため息をつけば、ケケケッとしゃがれた笑い声が背中で聞こえた。
「そうさ、御祭神さまにはきちんと手を合わせなきゃ行けないよ。未来の神職さまなら尚更だ」
そこに立っていたのは、胸の前で太った三毛猫を抱いたお婆さんだった。
ちゃんちゃんこにもんぺ袴、白い髪をお団子に纏めた出で立ちで、私達を見上げている。
あれ、このお婆さん今「神職さま」って……。