その日の放課後、荷物をまとめて部活へ行く準備をしていると「失礼しますッ!」と勢いよく教室の前の扉が開いた。
皆が目を瞬かせて顔を上げると、そこに立っていたのは中等部の制服を着て顔を真っ赤にした女の子だった。
「たたたた泰紀さん今おおおおお時間よろしいでしょうか!?」
「え、俺?」
「はいぃい!」
声をうわずらせた女の子は何度もこくこくと首を振る。
その後ろで女の子の背中をぐいぐい押していた友達らしき女の子たちは「頑張れ!」と彼女の背中を叩いた。
なんだか前に見たような景色に首を傾げる。
「そっかー、もうすぐ観月祭だしね」
首の後ろをかきながら少し照れくさそうに教室を出ていった泰紀くんの背中を見つめ来光くんはそう呟く。
「観月祭と今の、何か関係あるの?」
「観月祭の伝説聞いたことない?」
「伝説……?」
知らない、と首を振る。
観月祭は月を見る神事、だとしか聞いていない。