「兄さま、兄さま」


ふと背後から声が聞こえて振り返れば、嘉正くんの弟の嘉明くんが立っていた。

お、嘉明!と声をかけた泰紀くんに、「ひっ」と息を飲んで嘉正くんの背中に隠れる。

聞くところによると昔泰紀くんと慶賀くんにトラウマになるような遊び方に付き合わされたらしい。


「嘉明、どうしたの?」


嘉正くんは箸を置いて振り返った。


「兄さま、箱持ってる……?」

「箱? どんな箱? 図工で使うの?」

「ううん。タマゴからカブト虫の幼虫たくさん生まれたの。虫かごせまそうだから」

「お前……部屋で虫飼ってるの? 絶対かごから逃がすなよ」

「逃がさないもん」


唇を尖らせた嘉明くんに嘉正くんはやれやれと肩を竦めた。


「後で部屋においで。空き箱、欲しいやつ持って行っていいから」

「やった! ありがと、兄さま」

「ん。ほら、早くご飯食べてきな」


そう言ってぽんと頭に手を置いた嘉正くんは「ん?」と顔を顰める。

自分の席へ戻ろうと背を向けた嘉明くんを呼び止めてそのおでこに手のひらを押し当てる。