「いいかな、妖は君たち人間のように言霊の力は持たない。代わりに別の力を持っているんだけれど、それが何か分かるかな、慶賀」
「うえ!? 俺!?」
突然指名されて顔をひきつらせた慶賀くんは「うんと、えーと」と頭を抱える。
「その、あれだよ! あれ、そうだ妖────」
「妖力です」
口を挟んだのは恵衣くんだ。
「おいこら恵衣ーっ! 俺やっと捻り出したのに!」
「0.5秒以内に答えなければいけない質問に時間を使うな。ただでさえ授業と関係の無い話をしているんだ」
その言葉には思わず豊楽先生も苦笑いをうかべる。
「まあまあ喧嘩しないで。恵衣の言う通り、妖が持つのは"妖力"だ。なら、言霊の力と妖力の違いは分かるかい」
「え、えーと……」
「言霊の力は"言葉通りにする力"、妖力は"イメージ通りにする力"です」
こんにゃろう、と慶賀くんは唇を尖らせた。
「その通りだ恵衣。慶賀はもう少し勉強しなさい」
「……はーい」
豊楽先生にまで注意されて不服ながらもちゃんと返事をした慶賀くんに、隣の席の泰紀くんが「偉い偉い」とわしゃわしゃ頭を撫でる。