普段から会話をするような仲ではないし、祝詞奏上の練習も離れたところでひとり黙々と練習しているので恵衣くんが言祝ぎを込めた声を聞いたことはなかった。
どんな声なんだろう、と興味本位で身を乗り出す。
機材から流れてきた曲は小学校の音楽の授業で習った覚えのある曲だった。
イントロが流れ出し、恵衣くんはすっと息を吸った
「────ある日パパとふたりで 語り合ったさ」
その瞬間、私は息が止まった。
春風が吹き抜けた。
「この世に生きるよろこび そして 悲しみのことを」
寒い冬の日に降る小雨のように冴え渡っていて、触れるとどこか暖かい。真綿に包まれるように心地よく、木漏れ日のように朗らかで、その声はまるで山も海も草も風も全てが彼に味方しているように優しかった。
胸が震えるというのは、きっとこういうことなんだろうと思った。
息をするのも忘れて恵衣くんの歌声に聞き入った。