空いてる席に座って貰ったばかりの教科書を広げてみる。

次の授業は新しい科目「声楽」の授業だ。


担当教員は浮所(うきしょ)奏楽(そうらく)先生という男性の神職で、一学期に男子の選択科目だった雅楽の授業を担当していた人らしい。


「ねぇ来光くん」

「ん? 何?」

「奏楽先生ってどんな人?」

「んー、ゆるふわ」


即答した来光くんに、その隣で話を聞いていたらしく嘉正くんがぷっと吹き出す。


「ゆる、ふわ……?」

「間違いないよ。言い得て妙」


嘉正くんまでそういうのだから、きっとその先生は「ゆるふわ」な人なんだろう。

でもゆるふわと聞かされてイメージするのは、しっぽがシナモンロールのようにクルクル巻になった子犬のキャラクターだ。


試しに袴姿の神職にそのキャラクターの顔を付け替えてみたが、ゾッとしたのでかぶりを振る。


「見れば分かるよ」


嘉正くんがそう言って教室の扉をゆび指す。

ちょうどカラカラと引き戸が開き紫色の袴を履いた男性が入ってきた。


目が合ったその瞬間その人は、まるで綿菓子が溶けるような赤ちゃんが微笑むような、とりあえず効果音を付けるなら「ふにゃり」が一番当てはまるような笑い方をした。