慶賀くんが文句を言いたくなる気持ちも分かるけど、薫先生のあの性格を考えれば文句を言っても仕方ない。

大体薫先生はさぁ、なんて話しながら入ったのは、【雅楽室・藤】と書かれた教室だ。


畳張りの教室で、入口で上履きを脱ぐらしい。部屋の中には自室にあるような足の低い木製の机が並べられている。

神楽舞の授業で使う教室と雰囲気は似ているけど、天井が高く扉が分厚い。


へぇ、と目を丸くしながら教室を見渡すと、先に教室へ着いていたクラスメイトの恵衣(えい)くんとたまたま目が合った。

露骨に顔を顰めた彼は直ぐに手元の本に視線を移す。



完全に嫌われたな、と苦笑いをうかべた。


それもそうだ。一学期の行動を振り返れば、恵衣くんが私たちを嫌うのも無理はない。

消灯時間に外出したのがバレて罰則の巻き添えになったり、向こうでいう体育祭のようなイベントの奉納祭では私たちが気を失っていたせいで一人で出場する羽目になった。

元からそんなに好かれていない感じはあったけれど、今回でそれがハッキリした。


慶賀くんと泰紀くんは相変わらずだけど、来光くんはそんな恵衣くんの態度にずっとイライラしているし、それを取り持つ嘉正くんもいつも大変そう。

新学期が始まって早々一年生のクラスには微妙な空気が流れていた。