「────薫先生もタチが悪いよな。それならそうと最初から言ってくれればいいのにさぁ」
きゃあっと楽しそうな声を上げながら廊下を走っていった初等部の子供たちの背中を見ながら、慶賀くんは不貞腐れた顔でそう言った。
「いつまで言ってんの慶賀」
「だってさぁ、本気で死ぬかもって思ったんだぞ。来光だってチビってた癖に」
「はァ!? 適当なこと言わないでくれる!?」
顔を真っ赤にして怒る来光君をよそに、慶賀くんははぁ、とため息をついた。
二学期が始まって数日たち、校舎の中は賑やかさを取り戻した。
新しい時間割での授業も始まって、今は移動教室の最中だ。
慶賀くんが何をこんなにも不貞腐れているのかと言うと、夏休みに病院で起きた牛鬼の一件が関係している。
神修へ戻る車の中での薫先生の言葉を思い出し苦笑いをうかべた。
『あーあ。せっかく使役した牛鬼、こんなにも早く手放すことになるとはなぁ』
個包装のチョコのフィルムを剥がした薫先生はため息を吐きながら寝転がる。
ウノをしていた私たちは「え?」とお互いに顔を見合せると勢いよく薫先生を見る。
『薫先生、今なんて……?』
『だからー、せっかく使役した俺の可愛い牛鬼の太郎ちゃん、まさかこんなにも早くに手放す……』
『俺の、使役した、牛鬼?』