「あれ、巫寿?」
突然声をかけられて振り向くと、表通りからこちらをのぞき込む嘉正くんがいた。
「嘉正くん! 来てたの?」
「うん。嘉明の横笛が末の弟に壊されたらしくて、新しいのを買いに来たんだよ。ほら嘉明、巫寿お姉さんに挨拶……って、あれ?」
振り返った嘉正くんが、不思議そうにキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ、あいつどこ行ったんだ」
「私と会った時からいなかったよ?」
「またフラフラして……いつも迷子になって探し回る羽目になるんだよ」
「お兄ちゃんは大変だね」
ふふ、と小さく笑うと、嘉正くんは「本当だよ」とわざとらしく肩を竦めて笑った。
「それはそうと、巫寿はなんでこんな所に?」
「あっ」
そう言われて振り返ると、もうそこに芽さんの姿はなく今度は私がキョロキョロすることになる。
「今まで芽さ────知り合いと話してたんだけど、行っちゃったみたい」
ふと、薫先生から兄弟がいることは黙っていてと頼まれたことを思い出して「知り合い」と言い換える。
私が話し始めたから、きっと気を遣って黙って行ってしまったんだろう。