金魚売りに呼び止められてふっくらした大きな金魚の泳ぐ桶を覗き込んでいると、とんとんと肩を叩かれた。
振り返って、私を見下ろすその人に「あっ」と声を上げる。
「芽……さん?」
「あれ、薫から名前聞いたの?」
黒い眼帯で片目を隠し、肩にかかるくらいの黒髪。薄い唇が意外そうにその名前を呼ぶと、長いまつ毛に縁取られた伏せ目がちな垂れ目が弧を描いた。
背の高いその男性は私を見下ろして笑った。
「久しぶり、元気してた?」
ゴールデンウィークの最終日に出会ったその人は初めは「自分も神職だ」としか名乗らずずっとなにか引っかかる気がしていたが、一学期最後の日にその人が薫先生の双子のお兄さんだと言うことが発覚したのだ。
「改めてまして、神々廻芽です」
差し出された手を握ろうとしたが目の前を通行人が通って、「わっ」と身を引く。
こっち、と手招きされて大通りの脇の小道に逸れた。
「芽さん、お久しぶりです」
「今夏休み?」
「今日が最終日です」
「そっか。いいなぁ、夏休み。俺もひと月くらいゆっくりしたいよ」
そう言った芽さんにくすくすと笑う。
薫先生とは双子らしいけれど、性格は全然似てないんだな。顔はこんなにそっくりなのに。