はい!と叫んだ来光くんが転がるように走り出す。
その瞬間、来光くんの背中をぎょろりと睨んだ牛鬼は縛られた手足に力を入れる。ギチギチと音を立てるのに気付いたお兄ちゃんがまたさっきと同じ詞を唱える。
「……ックソ! お前ら、逃げろ!」
「そんな、お兄ちゃん!」
「俺は大丈夫だから、行け巫寿! お前ら、巫寿を連れて行け!」
駆け寄ろうとすれば嘉正くんに手首を強く掴まれた。
「ダメだ巫寿! 俺らじゃ足でまといになる!」
「だからってお兄ちゃんを一人には出来ない!」
「直ぐに薫先生が来るから!」
「でも……っ」
牛鬼の叫び声が廊下に響いて身を縮めた。
パンッ!と破裂音が響いて、牛鬼の手足を縛っていた何かが弾けた。
「行け、走れ!」お兄ちゃんの怒鳴り声と「行くよ巫寿ッ!」嘉正くん達の焦った声。咆哮しながらお兄ちゃんに向かう牛鬼。
本当に、逃げていいの?
凶暴な妖だ、嘉正くんの言う通り私ではきっと足でまといになる。
でもそんな妖を前に、お兄ちゃんだけ置いて逃げるの?