でも泣いている場合では無い。
青い炎に包まれて暴れ回る牛鬼が体勢を整えてこちらを睨んだ。
「離れてろッ!」
咄嗟に私を後ろへ突き飛ばしたお兄ちゃん。そして胸の前で鋭い柏手を響かせた。
「身体を護る神自凝島 髪肌を護る神八尋之殿 魂魄を護る神日之大神 心上を護る神月乃大神 行年を護る神星乃大神 謹請甲弓山鬼大神此の座に降臨し 邪気悪鬼を縛り給え 無上霊宝神道加持────」
指を不思議な形に素早く組んだお兄ちゃんは一息でそう唱える。祝詞では無い、でも声質からして呪詞でも無さそうだ。
「謹請天照大神 邪気妖怪を退治し給え 天の諸手にて縛り給え 地の諸手に縛り給え 天地陰陽神変通力……!」
次の瞬間、見えない何かが牛鬼を縛り付けた。
黒板を引っ掻くような悲鳴を上げた牛鬼が手足を縛られたかのように体を小さくしてその場に固まる。
慶賀くんが目を丸くして「すげぇ……」と声を上げる。
神職が四五人で戦う妖なのに、動きを封じた……。
お兄ちゃんが顔を顰めて振り向いた。
「おいお前ら! 直ぐに連絡取れる神職は!?」
「あっ、薫先生が隣の病棟に……!」
「直ぐに呼べ!」