走り出す直前に一瞬振り向いてそれを見た。
頭が鬼で胴体が牛、四肢は蜘蛛の足のように鋭いの形をしたそれは、まだ妖生態学では習っていないけれども授業中にパラパラとめくった教科書にその姿が掲載されているのを見た。
西日本に伝わる妖怪で、海辺のそばに生息すると言われている凶暴で残忍な妖────牛鬼だ。
「牛鬼……ッ!」
私がそう声をあげれば皆が目を見開いた。
「なんでそんな妖がここにいるの!?」
「知らねぇよんなの! 本人に聞けッ!」
足の早い皆に追いつけず少し遅れを取った私の手首を嘉正くんと来光くんが掴んで引っ張る。
「あ、ありがとう!」
「いいから走って!」
そう言われて必死に足を動かす。
牛鬼は鋭い足ではコンクリートの床が滑るのか、何度も体制を崩し距離が少しづつ開いていく。
先頭を走っていた泰紀くんが「こっち!」と叫んだ。
「レントゲン室」と書かれたその部屋にみんなして飛び込んだ。